魚を狙う海鳥も
漁に出ていく人々も
海を見渡しながら咲きつくす野花も
海岸を巡っていく風景のなかで
したたかな蘇りのときを待っている
(詩「海岸」より)
栞解説:佐相憲一 |
A5判/128頁/上製本 ISBN978-4-86435-072-3 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2012年7月19日
【目次】
第一章 わたしの越前
海のみえる露天風呂
斜面に咲く花
時 化
出漁のとき
越前蟹
海辺の墓
母の家
秘 密
祭り太鼓が聴こえない
忘れもの
温暖化
浜昼顔
立葵の花
海 岸
第二章 夜の歌
星 空
泥に棲む魚
夜の歌
わたしの星
ひとり旅
都 会
夜の居場所
ポプラの木
おやすみ
川のささやき
第三章 踊りの時間
緋色の別れ
電 車
自転車
谷空木
雪深い山奥
フランス菊
はすの花
踊りの時間
おにぎり
雨降りの日
ワタルくん
春の広場
未 来
あとがき
略歴
詩篇
斜面に咲く花
ここで暮らしていた昔の女たちは
急斜面の畑を耕しながら
漁獲で満載になった船が
入り江に入ってくるのをいつも待っていた
山の斜面から
時々顔を上げ
腰をいっぱいに伸ばし
空と海の境目の水平線を見渡し
遥か沖の向こうから
エンジン音を弾ませながら
船体が徐々に現れてくるのを
いち早く確認すると
段々畑の坂道を転げ落ちるように駆け下り
漁船からの水揚げを手伝っていた
冷蔵設備も完備されていなかった
道路状況も悪く
運送手段も確立されていなかった時代
豊漁続きだった
獲れ過ぎて捨てられた魚の腐敗臭が
暑くなった昼などは地域中に溢れ
吐き気がするほどだった
伝説が過ぎ去った現在
活気で溢れかえっていた漁港は
ほんの数隻の漁船と廃船
海水を原子炉の冷却水として
毎日何十万トンも巡回させ
その超高熱の排水をちょっとだけ冷まし
また海に放出させている
プランクトンは完全に死滅状態
戻された海水には小魚の餌がない
回遊魚も小魚のいない近海に寄ることは
稀のようだ
原因はそれだけが全てでもない
度重なる沿岸工事
排水などによる海への汚染
関係はさまざまにあるだろう
意気揚々と船で戻ってきた男たちも
海を真下に見下ろしながら
ひたすら待っていた女たちも
皆とっくに別の世界に逝ってしまった
集落の山の斜面では
あまり耕作しなくなった段々畑に
自然に生えた水仙の花だけが
くる年毎に
忘れないで
咲き揃うのだ